概算工事費(仕様書)を作成する

 この記事では、建物の劣化状況を診断後、概算工事費を作成するための手順と大規模修繕工事に実施すべき修繕内容の取捨選択について記載しています。

 大規模修繕工事に必要な費用が分かれば、修繕積立金の値上げに関する検討が必要になる場合があります。この修繕積立金値上の議論の際に知っておくべき注意点にも触れています。

▶前の記事「建物の劣化状況を診断する~大規模修繕工事の進め方~」はこちらから

概算工事費作成の必要性

 概算工事費(仕様書)は、大規模修繕工事の相見積もりを公平公正に取得するために、なくてはならない資料です。

  概算工事費とは、工事に必要な材料や数量を算出し「数量×単価」から割り出す工事費の概略見積です。数量の予測は、マンションの設計図書や竣工図、仕様書および過去の修繕記録などを用います。

 大規模修繕工事が2回目以降の場合、前回の工事見積を流用し「単価」を実勢価格に修正し、概算工事費とすることもあります。 

 概算工事費の取得は大規模修繕工事の時期の決定や修繕積立金の改定(値上)の検討にも必要な資料です。 信頼できる専門家に依頼することをお勧めします。

概算工事費作成の依頼先

 概算工事費作成の依頼先として、下記が挙げられます。

 概算工事費作成の依頼先は、その後大規模修繕工事のコンサルタント等の依頼先になることが多いため、発注には細心の注意が必要です。

概算工事費作成の設計事務所と、大規模修繕工事のコンサルタントを別会社にすることでリスクを減らすことが出来ます。

 建築事務所などが概算工事費作成を格安で受注し、引き続き大規模修繕工事コンサルも受注、工事発注をコントロールし、工事会社より多額のキックバックを取得するスキームが問題になっています。

参考記事:マンションの修繕工事と談合

 国土交通省からも警告が発せられています。

「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)」

 マンションの大規模修繕工事等において、診断、設計、工事監理等を担う設計コンサルタントが技術資料を作成し、管理組合の意思決定をサポートする、いわゆる「設計監理方式」は、適切な情報を基に透明な形で施工会社の選定を進めていくためにも有効であるとされています。
しかしながら、別紙1の通り、発注者たる管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が指摘されています

国 土 交 通 省 住 宅 局 「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)」 平成 29 年1月 27 日

<指摘されている事例>

 一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態が発生している。

国 土 交 通 省 住 宅 局 「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)」

 また、管理会社へすべてを丸投げする方式は大規模修繕工事のコスト増大につながるため回避しなくてはなりません。

多くの場合、管理会社は設計会社や工事会社を兼ねていて、ワンスポットで大規模修繕工事を受注することが多いのよ

それって、管理会社の「思うつぼ」じゃニャいの?!

▶参考記事:「コンサルタントを見極める~大規模修繕工事の進め方~」

<番外編>コンサルタントを見極める ~大規模修繕工事の進め方~

この記事では、大規模修繕工事の「談合」を防止するために、コンサルタント選びにおいて実践すべき対策を説明しています。

 一般的に、概算工事費の算出は建築士の業務であるため、ちいさな管理では協業する一級建築士に作成を委託し、作成したデータを監修しています。

ちいさな管理

大規模修繕工事をサポートします。詳しくは下記ページをご覧ください

2種類の概算工事費を作成する

 概算工事費を取得するとき、下記2種類の工事費を取得することをお勧めします。

  • 必要最低限の修繕を実施するための概算工事費
  • 工事時期を迎えるすべての個所を修繕した場合の概算工事費

 上記2種類の概算工事費を取得する理由は、現在積み上がっている修繕積立金で程度工事をカバーできるかを確認するためです。

 「すべての修繕を賄うには修繕積立金が不足するが、必要な個所の修繕には十分に足りている」という場合、現状の積立金でどこまでの範囲を修繕できるのか概算工事費から目安を付けます。

 このように、2種類の概算工事費を基に修繕箇所を細かく算出すれば、管理会社が提案する「足りないので、修繕積立金を3倍にします!」などのような乱暴な値上げを回避できる可能性があります。

必要な修繕項目を検討する

 概算工事費には、建物の部分や個所に対する使用材料や対応年数、作成者(建築士等)からのコメントなどが添付されます。

  • 材料名・対応年数
  • 前回修繕時期
  • 現状の劣化状況
  • 修繕の必要性と時期 など

 これらの情報を参考にと修繕積立金の積上げ可否を加味して修繕の個所を決定してきます。

 立地条件や形状、使用材料によって劣化状況は異なります。また、同じマンション内でも劣化の進行はかなりの差があるため、必要な箇所を見極めて修繕すればコスト削減につながります。

 「全部をマルっと修繕しましょう」と安易な提案をするアドバイザーを避け、信頼できる専門家を探すことが大切です。

概算工事費作成発注の段階から、注意することでいっぱいだね

管理組合の力量が問われるのよ

修繕積立金の爆上げについて|ちょこっとコラム

  現在、管理組合を取り巻く環境は「相当悪い」と考えてください。

 管理組合の環境を危うくしているのは、所有者の「無関心」が最たる要因です。

 マンションの管理組合が保有する「お金」は、共同所有ゆえに「無関心」になってしまいがちです。

 そんな「無関心なお金」は、様々な”誰か”に狙われているのです。

 使い道をしっかりチェックしないお金など、「好きにしてください」と言っているようなものでしょう。

 昨今話題になっている、修繕積立金の2倍や3倍の値上げも、管理会社がここぞとばかりに値上げさせているのではないかと、訝っています。

 本当に3倍もの値上げをしなければならないなら、それはこれまで管理してきた管理会社が怠慢であった証拠であり、恥ずべき事態です。

 しかし、昨今の物価上昇を口実に必要以上の値上げを管理組合に押し付けているように感じます。

 値上げした積立金を慎重に使うならまだしも、管理会社の言いなりに高額な支出を続ける組合の財務状況を見るにつけ、この業界の闇の深さを痛感します。

今日はいつもに増して辛口だニャ!

実際には、管理会社からの積立金値上の提案をずっと見送ってきた組合もあるけどね


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