建物劣化診断 診断費用を抑制するには

建物劣化診断は必要か

 まず結論から申し上げると、大規模修繕工事のために建物劣化診断は必要ないと考えます。

ただし、その必要のない診断とは、”詳細な診断”は必要ないという意味です。

つまり、必要最最低限の「建物診断(劣化状況診断)」は、実施する必要がありると考えます。

建物劣化診断とは

 国土交通省の「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」によると、「大規模修繕工事の実施を検討するにあたっては、長期修繕計画に基づき、建物・設備の調査診断を行い、現状の劣化・損傷の程度等を正確に把握し、必要と考えられる工事内容を検討することが重要」とあります。

大規模修繕工事の実施を検討するにあたっては、長期修繕計画に基づき、建物・設備の調査診断を行い、現状の劣化・損傷の程度等を正確に把握し、必要と考えられる工事内容を検討することが重要です。

改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル(国土交通省)

 つまり、大規模修繕を前提とした「建物劣化診断」とは、建物の状況を正確に把握し必要な工事の内容を決定するために実施する診断です。

建物劣化診断の目的

 建物診断の目的は、下記のようなものがあります。

  • 建物の劣化状況を知る
  • 大規模修繕工事の時期を判断する
  • 大規模修繕工事の修繕内容を判断する
  • 修繕箇所の優先順位を決定する
  • 大規模修繕工事の必要性を周知する

 様々な目的で実施される建物劣化診断ですが、その最大の目的は、管理組合員(所有者)に大規模修繕工事の必要性を周知すためではないかと思います。

 大規模修繕工事は、莫大な費用が投じられ中には修繕積立金の値上がりとセットで話し合われる組合が少なくありません。

 「値上げするなら修繕を見送れ」とうい声も上がることがあります。

 このような否定的な意見を抑えて修繕を進めるために、”客観的なデータを用いた説得材料”が、建物劣化診断と言えるでしょう。

管理会社が推奨する建物劣化診断

 管理会社が進める建物劣化診断は、不要な調査が含まれている場合が多いと考えています。

管理会社が推奨する建物劣化診断の内容(例)

  • 目視・打診調査(打診調査とは、壁面(タイル面)を叩いた際の音の変化から内部の状態を判断)
  • 仕上材付着力試(タイルや塗膜などの仕上材がコンクリートの躯体部分にしっかりと接着しているかを調べる機械調査)
  • シーリング材物性試験(サッシ周りや外壁のつなぎ目などに使用されるゴム状の材料であるシーリング材の伸び率などを計測し、基準を満たしているかどうかを調査)
  • コンクリート中性化試験(外壁の一部から小さなコンクリート片を採取し中性化の進行度を測定)
  • コンクリート簡易圧縮強度試験
  • 鉄筋位置・かぶり厚調査(電磁波を使用してコンクリート内部の状態を確認)

 シーリング材、コンクリート、塗料などはその材質からある程度の劣化状況は判断ができます。また、仕上げ材(防水塗料など)の付着力も目視等で判断が可能であり、測定器を使用した調査の必要性には疑問を感じます。

 コンクリートの中性化試験や圧縮強度試験、かぶり厚調査を行っても、建物そのものの中性化やかぶり厚不足を回復させることは不可能であり、費用を掛けて診断する必要性は高いとは言えません。

 これらすべての調査をパッケージ化した診断は時に百万円を超えることもあり、その必要性を疑うことが必要です。

建物診断が必要なマンションとは

 しかし、上記のような診断を必要とする組合がないとは言い切れません。それは下記のような組合です。

  • 大規模修繕工事の必要性について揉めている組合
  • 大規模修繕工事時期について揉めている組合

 つまり、大規模修繕工事の必要性について揉めており、修繕時期を過ぎても修繕が実施できていない組合や、修繕の時期を決定できないで工事が見送られている組合などです。

 しかし、上記のような組合でも、例えば前回の大規模修繕工事から20年が経過しているなどの場合には、「劣化診断するまでもない」というような状況の組合もあるでしょう。

 この場合にも、パッケージ化された劣化診断は「費用の無駄」になる可能性が高いと考えられます。

建物劣化診断の進め方

 パッケージ化された建物劣化診断が不要な場合、まずは一級建築士など建物の専門家へ「目視・打診調査」を依頼します。

 ここでも、専門家選びは慎重に行う必要があります。国交省が専門家選びに関する注意喚起を行っており、細心の注意が必要です。(▶これに関する別に記事を読む

ちいさな管理

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結論! 大掛かりな診断は必要ない

 大規模修繕工事の必要性について同意が得られており、時期および優先順位を決定するための「劣化診断」なら、①の「目視・打診調査」で事足りるとわたしは考えています。それほど費用を必要としないのです。

 大規模修繕工事の実施は管理会社に丸投げせず、大規模修繕工事を組合自らが押し進める必要があります。特に組合の財政に余裕がないマンションこそ意識改革が必要です。

 そのためにも、 大規模修繕工事の前段階である「建物劣化診断」の時点から、不要な支出を抑えることが大切です。

▶参考記事:「修繕委員会の設置 ~大規模修繕工事の進め方~」

高額な建物診断を断れるのか・・・|少しだけコラム

 わたしが管理会社のマンション担当者であったころ、計画を含め数件の大規模修繕工事の実施を経験し、「建物劣化診断」について得た答えがこのページに記載した内容でした。

 つまり、大規模修繕工事の必要性について「同意が得られる」組合さんなら、管理会社が提案する数十~100万円もの費用を要する「診断」は必要ないということです。

 診断に費用を掛けても掛けなくても、必要な修繕を粛々と実施するであろう管理組合に「劣化診断費用」は単なる形式であり無駄な支出と感じました。

 そこで、とある管理組合の理事会で上記の”私見”を説明し、次回の大規模修繕工事においてはパッケージ化された劣化診断の実施は見送る提案をしました。

 理事会からは納得いただき了承を得たので、議事録にも残したのですが…。

 次の大規模修繕工事が迫り管理会社から劣化診断実施の提案があった時、管理組合から「必要最低限」の内容でよいという意見が出るかどうか・・・。

ほんとうは見守っていたかったのですが、わたしが管理会社から離れることになりました。

 心残りの一つです。

ちいさな管理

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理事が知るべき、マンション運営の基本を解説した冊子

 マンション運営の基礎が学べる冊子あります。

・管理組合とは

・管理規約と標準管理規約

・長期修繕計画書の見方

・組合会計の基礎知識 ほか