工事範囲を決定する

  このページでは、大規模修繕工事の工事(修繕)範囲の決め方について、詳しく説明します。工事範囲を決めるためには、建物の劣化状況診断と概算工事費の取得がされているとスムースです。

建物の劣化状況診断および概算工事費の取得については、過去の記事に記載していますのでご参照ください。

 また、大規模修繕工事に関する談合に関しての記事はこちらをご覧ください ▶マンションの修繕工事と談合」

▶前の記事「概算工事費(仕様書)を作成する~大規模修繕工事の進め方~」はこちらから

修繕積立金を確認する

 大規模修繕工事のための概算工事費用が判明したら、まずは管理組合の会計報告書から修繕積立金の積立額を確認します。

 修繕積立金会計「次期繰越額」をチェックしてください。

 ▶参考記事「マンションの会計報告書の読み方 4」

 修繕積立金は下記のいずれに当てはまりますか?

  • 十分足りている
  • おおよそ足りている
  • 全く足りない

 たとえ資金が十分に足りていても、大規模修繕工事の範囲は決定する必要があります。不要な工事の実施を避け支出を抑えるるためです。

建物診断を確認し、修繕範囲を決定する

 簡易な建物診断でも、診断を実施すれば建物の部分について劣化の進行と修繕の要否および修繕の時期が判定されます。

 この診断結果から早期に修繕する必要があるものを拾い出し、工事範囲に入れていきます。資金が大幅に不足していたとしても、修繕が急がれるのであれば修繕範囲とすべきでしょう。

 大規模修繕工事には足場を組んで実施されることが多く、足場を必要とする修繕は同時に実施することが望ましいとされています。(外壁塗装や外壁の配管などです)

 一方、廊下や階段、足場を必要としない屋上防水などは、状態により工事範囲から除外できます。

 15年周期で必ずしも修繕を必要としないものもありますし、建物の形状によっては他の個所よりも劣化しにくい場所など違いがあります。

 すべての範囲を同じように修繕する必要ありません。

ちいさな管理

大規模修繕工事をサポートします。詳しくは下記ページをご覧ください

仕様変更を検討する

 必要があれば、現在の仕様(建築材料等)からの変更を検討します。

 仕様変更の例

  • 廊下の防水塗装を長尺シート貼りに変更
  • 外壁のタイル貼りを防水塗装やその他外壁材へ変更
  • 屋上防水の仕様を変更
  • 外壁塗装の塗料を変更

 外壁タイルに浮きが発生している箇所は取り除き新しく貼りなおす必要があります。

 大規模修繕工事の度に浮きが広範囲で発生し貼り換えに多額の費用を要する場合には部分的でも別の外壁材に変更することを検討する価値があります。(長期的にメンテナンス費用が抑制される可能性があります。)

 また、タイルを現場に合わせて生産する(特注タイル製作)などの方法は避け、既製品の中から選ぶことをお勧めします。特注タイルの生産は相当な費用を要し、大規模修繕工事費の高騰につながります。

 一方、仕様変更は所有者の満足度や修繕積立金会計に大きく影響するため、慎重に行います。

工事仕様書を作成する

 修繕の範囲および仕様変更の確定後に、大規模修繕工事のための「仕様書」を作成します。

 これは、見積に参加する工事会社が“見積もりのベース”として利用するための大切な資料です。この「仕様書」が正しく作成できていないと、合い見積もりの際に各社がまちまちな見積書を作成してしまい、合い見積もりになりません。

下記内容を記載します

  • 工事の次期(ある程度余裕のある時期を明記する)
  • 支払い条件
  • 修繕の内容(修繕方法、使用する建材名などを記載)
  • 修繕箇所(北側壁全面など)
  • 工事事務所設置個所の有無等
  • エレベーター専用使用の可否等
  • 進捗説明会実施の頻度等

 建築士等がコンサルタントとして大規模修繕工事推進に参加している場合は、建築士が作成してくれます。

コンサルタントとの誓約書の取り交わしと、キックバック禁止の明示

 ここで、管理会社や建築士、またはマンション管理士がコンサルとして参加している場合、これらのコンサルタントから「工事会社からキックバックを受け取らない」旨の誓約書を管理組合に提出してもらいます。

 また、見積に参加する工事会社に配布する「仕様書」には下記のような文言を明記するとよいでしょう。

「大規模修繕工事のコンサルタントである〇●建築事務所(or 〇×管理会社)は、工事会社からのキックバックを受け取らない旨の誓約書を管理組合と交わしている。このため、工事の費用にキックバックの費用を含めないこと」

こんなことまでするの?!

見積もり段階で明記することが肝心よ

大規模修繕工事時期を設定する

 修繕を必要とする範囲が決定できれば、次に修繕を行う時期を決定します。

 直ちに実施する必要がるのか、3~5年先延ばしに出来るのか、建物診断を依頼した建築士などの意見を踏まえ決定しましょう。

 建物の状態から修繕を2年ほど先送りに出来、その間で修繕積立金が積み上がるなどの場合は2年後に修繕が完了するスケジュールを立てます。

修繕積立金を見直す

 さて、修繕範囲を絞り込み、仕様を変更し、修繕実施時期を決定した上で資金が不足する場合には修繕積立金の値上げは避けて通ることは出来ません。

 次回大規模修繕工事のための積立金の不足だけでなく、その先を見越してた修繕積立金の値上げが必要です。

 値上げを実施しても、修繕積立金が不足する場合は、不足分を全戸から徴収します。(臨時徴収)

 借入はお勧めできません。

▶参考記事「修繕積立金の値上げ、逃げたらどうなるのか」

なぜ借り入れはお勧めできないの?

借金体質になるのを避けるためよ。

足りない現実に向き合い、解決に取り組むマインドが必要よ

<特集>手順を踏めば組合でできる!~大規模修繕工事の進め方~
 大規模修繕工事をコントロールすることは、長期的なマンション運営の明暗を分けると言って過言ではありません。
 この特集では、管理組合が大規模修繕工事を主導するために、手順のひとつひとつを丁寧にご説明します。

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