修繕積立金の値上げと、ある理事の決断
理事会役員がオリンピック周期で回ってくるマンション
「理事会当番がオリンピック周期とはいくら何でも早すぎる・・・何とかならないのか・・・」
これは、とあるマンションの理事長がもらしたセリフだ。
そのマンションは小規模なため、およそ4年に1回のペースで理事役員の輪番が回っていたのだ。
区分所有法によると、マンションの区分所有者は、管理のための団体を構成し、集会を開き、管理者を置くことができるとされている。「管理のための団体」とは管理組合のことで、区分所有者は管理組合の構成員だ。
マンション管理の要ともいえる管理組合であるが、その代表者で構成する理事会の理事・役員の仕事はとかく疎んじられる。
しかし、悪いことばかりとではない。管理組合に参加して知識を得る機会が多いためか、小規模マンションの所有者は、マンション管理について理解されている方が多いのだ。
ある理事からの相談
ある理事会の終了後、「少し相談がある」と、女性の理事から声を掛けられた。話の内容は、「修繕積立金の今後」についてだった。
そのマンションでは、当初、修繕積立金はかなり低く設定されており、1回目の大規模修繕工事を積立金で賄うことが出来なかった。
不足分に対してローンを組んだため、返済と2回目以降の大規模修繕工事の積上げが重なり、修繕積立金は大幅に引き上げられていた。
それも、一度の引き上げでは追い付かず、3年毎に修繕積立金が値上げされる計画であった。築30年頃には、管理費と修繕積立金合計で4万円以上になることが予定されていたのだ。
その理事はお一人暮らしで、
「定年も近く、年金暮らしになっても修繕積立金の値上げが続くのはとても不安だ。マンションを売ろうかと考えている・・。」とおっしゃった。
マンション担当者の本音と建て前
わたしも修繕積立金の値上がりスピードについては気になっており、
「値上げは計画であり、都度、総会で皆さんの同意を得て行いますから、必ず値上げされるとは決まっていないんですよ。」
と説明した。
しかし、理事は、
「管理会社が主導して値上げを行えば、組合は反対しないから、予定通り値上されるでしょ。」
と、痛いところを突いてくる。
工事の取捨選択とコスト削減を行えば、値上げ幅を圧縮できる可能性があるし、わたしならそうすると思ったが、次の大規模修繕工事までわたしがこのマンションを担当する保証はない。
何より、この方は管理会社やその手法についてよく理解している・・・。理事が回ってくる頻度が高い分、マンション管理について知っておられるのだろう。
わたしは思い切って、本音を話してみた。
「わたしには今が売り時かどうかは分かりません。でも、修繕積立金が値上げされる前のほうが売りやすいことは確かだと思います。」
管理組合を理解していると決断できる??
それから1年が過ぎた頃、その方がマンションを売却されて出て行かれたと聞いた。
管理組合の活動を通じてマンションの内実と見通しを認識し、自身の身の振り方を早めに決断されたのだと思う。
管理組合の役員が数年に一度回って来たからこそ判断できたのではないだろうか。
あとがき
今回のコラムに登場する女性理事との出来事は今でもよく覚えている。
マンションの担当に就いたばかりの私に、この方は”マンションのご意見番”、この方々は”うるさ型”・・・など組合員さんのキャラクターをこっそり教えてくれた方だった。
当のご本人は大変物静かな方だったが、
「前任の担当者はデキルタイプだったが、無理な修繕工事を押し付けてきた」
と、わたしにやんわりとクギを刺して牽制されたものだった。
その方から、マンションを売ろうかと思う・・・と相談されたときは少し驚いた。
ちいさな管理室内で今後の修繕積立金の値上げやマンションの行く先を話すうちに、この方には建て前など通用しないと感じた。
わたし自身も、管理会社と言う立場を離れ(時間外だったし^^)、本音でお話をした。
おそらくは、予定通りに修繕積立金の値上げは実施されるだろうし、マンションは売りづらくなることが大いに予想されると。
最後に管理室を出るときに、「ありがとう」と声を掛けられた。
わたしは、決断されたんだなと思った。
今でもお元気でいらっしゃるだろうか。
初回ご相談は無料です