理事長からのお呼び出し

マンション担当者は続かない・・

フロント職の寿命は短い。わたしが当時勤めていた大手の管理会社でも、フロントは2年持たないと言われていた。半年~1年程度で離職してく人が最も多かっただろう。

どう育てられるか、初めの半年にかかっていると思う。

わたしは幸運なことに、管理業に長く携わるベテラン中のベテランが直属の上司としてついてくれた。

理事長の不満

就職して間もないころ、その上司から引き継ぐ予定になっている大型マンションの理事長から、上司が呼び出しを受けた。とにかく、話がしたいという。

この理事長は管理会社を好意的に見ておらず、それをあからさまに態度に示される方で、理事会運営も難易度が高かった。

ゆくゆくは私が引き継ぐ予定だったため、同行することになった。

理事長は、管理に大変な不満があるという。

清掃、点検、修繕等について不満をながながと話された。

「これでは満足いかない。改善策を提示してほしい。」と。

理事長の誤解

上司は理事長の話を「ごもっともですね」と粘り強く聞いていた。

1時間ぐらい経っただろうか。

理事長の勢いが収まってきたところで、上司が口を開いた。

「おっしゃることはごもっともです。しかし、こちらのマンションの管理は、通常とは少し異なっていまして、管理会社から分離して発注された業務が多く、ご指摘の不備の多くが管理会社を通さない業務です」と。

多くのマンションでは管理会社に管理全般を委託するが、そのマンションではリプレイス(管理会社変更)の際に、NPO法人の某コンサルタントを利用したために、様々な業務が管理会社から切り離され、直接発注となっており、管理会社の仕事ではなかったのだ。

理事長が1時間かけて述べた不満の多くは、本来なら管理組合が直接各業者に改善を依頼すべき事柄だったのだ。

わたしは黙って二人のやり取りを聞きながら、ようやく合点がいった。

“この理事長が理事会で管理会社に厳しい発言を繰り返してきたのは、こんな不満や不信があったからなのか。”

リプレイス時の経緯を説明した上で上司は、

「理事長のおっしゃることはごもっともですので、各業者にはわたしからその内容を伝えましょう。」と述べて、その日の打ち合わせを終えた。

雪解けは話し合いから

この面会は、理事長の勇気と上司の対応能力がわだかまりを解決する、両者にとって大変有意義なものとなった。

もし、理事長がこの先も不満や不信を抱えたまま組合活動に取り組んだとすると、イライラは増すばかりだっただろうし、管理会社の担当者は神経をすり減らすことになったと思う。

モヤモヤがあるなら、話し合いはいつであっても決して遅くはない。今回のように誤解があるのかもしれないし、単なる担当者の怠慢であるかもしれない。いづれにしても、解決に向け一歩を踏み出すことが重要だ。

新人の私は、顧客である所有者の不満にじっくり耳を傾け、丁寧に説明することがフロント職としていかに重要かを学んだ。この上司の下で経験を積めたことは、私にとって非常に幸運であった。

あとがき

この理事長は、相当な覚悟で管理会社の担当者を呼び出したに違いありません。

ゆえに、話し合い開始時の緊張感と、終了時の和やかな雰囲気とのギャップが今でも忘れられません。

本来理事長は、管理組合を代表して各業者さんに改善を依頼し、その結果を報告させ確認する業務を負う必要がありました。しかし、契約外ではあるものの、管理会社が代行しましょうということで話を決着させたのです。

次の理事会で理事長は、この話し合いの経緯と結果を理事の前で説明してくださり、このマンションの特質について皆さんにも情報を共有されました。このことで管理会社への間の不信感がずいぶん和いだと思います。

普段は “セッカチ” な上司が、理事長の話が尽きるまで、”聞くこと”に徹した姿は、ある種の感動を覚えました。

わたしなら話の最中でも、申し開きをせずにはいられないと思ったからです。

相手の話を、(相手が話すことがなくなるまで)黙って聞くという技術は、そうそう身に付くものではありません。

わたしは未だ、道半ばです。

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