シリーズ、大規模修繕工事狂騒曲 第5話
前回までのおさらい
大規模修繕工事を控えた某マンションの話。理事就任を希望する引っ越し間もない居住者は、大規模修繕工事に介入して裏で多額の報酬を得る事業者の社員であると判明。内情を詳しくしる関係者が、WEB上で発信する情報も確認し、理事会は修繕工事への介入を許さないと決めた。一方、管理会社では、「胸倉を掴まれたら、即警察を呼べ」と元上司が担当者を指導した。
マンション担当者、戦線恐々
すでにご存じの通り、担当者は若くはないが、か弱い女子だ。その筋の人達と関わり合いになったことは、これまで一度もなかった。刃傷沙汰も皆無だ。当然、理事会は恐怖であった。
某事業者の社員は、毎月会場前にはせ参じ、「出席させろ」「勝手に業者を選ぶな」などと演説をぶった。理事会終了後には担当者を待ち伏せし、「どうなっとんねん!」「○○社と通じているのか!」とすごんでくる。
担当者は身の危険を感じ、マンションから駅までのルートを変更。遠回りして往復した。理事会終了が夜9時を過ぎる場合には、管理員さんに道中の送迎をお願いして、付きまといをかいくぐった。
怪文書の全戸配布も一度や二度ではない。そこには「管理会社が大規模修繕工事を誘導しようとしている」とか「○○社の社員××と管理会社が癒着している」などと、どこの誰とも知らない人物の写真まで掲載されていた。
理事会で一波乱
そんなある日の理事会のことだ。件の社員が「理事長!お話があります!理事長!」と集会室の前で大声を出した。いつにも増してしつこく、会議が始まっても止めなかった。やむなく担当者は理事会を中断し、申し入れを断るために席を立った。
社員 「理事長!理事長!」
大野 「理事会の邪魔になるから止めて下さい。あなたの理事会への参加は理事会で否決されています。」
社員 「オマエが出しゃばるな!」
大野 「オマエ?オマエ!とはどういうことや!!」
凄みのある女子の声を聞いて、驚いたのは理事長らだった。慌てて駆け付け、にらみ合う二人の間に割って入り、「まあ、大野さんおちついて・・・。あんたも帰って。何回来ても理事会には入れんよ。」とその場を治めた。
殴られたらよかったのに?!
翌日、この顛末を元上司に報告した。
上司 「大野さん、殴られたらよかったのに。」
大野 「なんでですか?!」
上司 「殴られれば、警察沙汰で話は早く解決するんだよ。」
「胸倉をつかまれたら警察をよべ」と指導されていたが、その心は「殴られろ」ということであったのか!
その後も件の社員は努力を重ね、小競り合いは1年ほど続いたが、理事会は動揺することなく、大規模修繕工事の手続きを粛々と進めた。8社より工事の見積もりを取得し、事業者コンペのうえ、地元の施工会社を選定し、総会で区分所有者から承認を得た。他社への工事発注を見届けたお連れ様ご一行は、マンションを早々に引き払い去って行った。こうして、マンションに平安が戻った。
それにしても、このマンションでお連れ様らの介入を阻止できたのは何故か?次回コラムで検討してみたい。
つづく
あとがき
件の会社の社員(理事会に参加させろという新居住者)もまた、「絶対に先に手を出すな」と、教育されていたのだろう。それほど、一触即発の雰囲気だったのだ。にらみ合いながらも、お互いに先に手は出さないぞ!と。
上司からは、「殴られて警察を呼べば話は早い」と言われたが、それよりも早く、私の心がへし折られていただろう。もし暴力沙汰が起これば、わたしは翌日にでも退職したのではないか。
管理会社のマンション担当者という仕事は、殴られてでも続けたい仕事ではない。少なくとも私にとってはそうだった。その理由はコラムをお読みの皆さんには、十分に伝えられていると思う。


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