シリーズ、大規模修繕工事狂騒曲 第4話

前回のおさらい

大規模修繕工事を控える某マンションの話。理事会は、新しい所有者から理事就任を何度も申し入れされていた。偶然、その所有者の正体が判明する。理事会を誘導し、連携する施工業者に大規模修繕工事を受注させ、多額の報酬を裏で得ることを生業とする事業者であった。

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管理員さんの直感

「やっぱり。おかしいと思いましたよ。」お連れ様の登場とその稼業を聞いた管理員さんの第一声だ。あのしぶとさは、尋常でなかったと。

管理会社がマンション修繕工事から大きく上前をはねるのは、よくある話だ。当コラムでも、「管理会社商法」として度々取り上げてきた。メイン・イベントは、言わずと知れた大規模修繕工事。

しかし、手口があまりにえげつないと、組合員の間で管理会社に対する不信が広がる。そこに付け入るのが、お連れ様のような会社だ。マンションに入り込んで、理事会や総会で管理会社を誹謗中傷し、すでに芽生えていた組合員の不信感に油を注ぎ、息のかかった工事会社と結託し、大規模修繕工事を奪い取る。管理会社の強敵だ。 

大規模修繕工事の計画がなぜ知られたのか

ところで、読者の方は、部外者がどのようにして大規模修繕工事の予定をかぎつけるのか、訝るかもしれない。しかし、これはマンション管理の仕組みを知るものにとっては容易いことである。

管理組合は、マンションの一室を購入しようとする者に対して、「重要事項調査報告書」という文書で、マンション管理に関する情報を開示する義務がある。その文書の中には、“大規模修繕工事実施の検討の有無”が記載されていることがあり、修繕積立金の「残高」は原則記載となっている。「重要事項調査報告書」を入手し、大規模修繕工事実施を検討している資金の潤沢な大規模マンションを選び出すという訳だ。

理事会の判断は・・・

 状況を把握した管理員さんの動きは素早かった。お連れ様情報共有の数日後には、「お連れ様の会社が、どのようにして管理組合に入り込み、大規模修繕工事をX社に誘導しているか、某サイトに書いてありますよ」と報告してきた。確認すると、サイトに登場する氏名と社名は、私が入手した名刺に一致。その手口も上司経験の通りであった。

次に、管理員さんは、理事長と打ち合わせし、見つけたWEBサイトと管理会社の掴んでいる話を踏まえて、新居住者さんが理事就任に固執する理由を説明した。

理事長  「えらいことや。しつこいはずやなあ。」

管理員  「理事の皆さんにはなんて説明しましょう」

理事長  「とりあえず、副理事長と監事には先に伝えようか・・・。」

管理会社の教え

こうして、マンションのおかれた状況を理事らとも共有し、理事会は今後の方針として、「件の家業の者の介入を許さず、大規模修繕工事の工事事業者選定を粛々と進める」と決断した。

一方、管理会社では、元上司が担当者に秘策を伝授していた。

元上司:「大野さん、いいか、先に手を出したらあかんぞ。相手に胸倉をつかまれたら、警察を呼べ。」

大 野:「ええ?胸ぐら掴まれるんですか?!」

元上司:「殴られるかもしれん・・・」

つづく

あとがき

このサイトでは、マンション管理において管理員さん達が果たす役割の大きさについて、いく度も触れている。管理員さんはマンション管理の要だ。

マンション担当者は多くのマンションを担当し、一つの組合に十分な労力が裂けない。管理会社にもよるが、一人で20以上の組合を担当する場合があり、ほとんど何もできないという状況が起きているのではないかと推察する。

一方、管理員さんはマンションに専任していることが多く、担当者とは比較にならないほど館内の状態を把握しているだろう。

よい管理員さんは、雇用はされているが管理会社の側でもなく、組合側でもなくバランスよく対応し、マンション内で高い信頼を得ているのだと思う。このコラムの管理員さんがそうだったからだ。

管理会社の良し悪しは、よい管理員さんを採用できる能力の有無で判断できるかもしれない。

提供:株式会社ビル新聞社

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