夫婦喧嘩が与えるマンション管理への影響
マンションは運命共同体
マンションは一個の運命共同体だ。
一致団結して共有する建物の維持管理に努めれば、その共同体の未来は安泰だ。ところがその共同体の構成員は一様ではなく、マンションは時に想定外の事態に見舞われることになる。
とあるマンションのお騒がせ居住者
某マンションは、全40戸ほどの小ぶりなマンションで、これまで大きなトラブルなく運営されてきた。
そんなマンションに、あるとき越してきた家族は周囲を度々賑わしたのだ。
居住開始早々、肌に施した派手なアートを見せながら館内を闊歩したため、他の居住者に動揺が走った。
また、飼い犬のフンを廊下に放置したり、営んでいる事業の廃棄物を大量にゴミ庫に捨てるなどマナー違反が相次いだ。
最も苦情が噴出したのは、館内に1か所しかない来客用駐車場を私物化したことだ。
マンションの駐車場を賃借してはいたのだが、機械式の駐車場を操作するよりも平置きの来客用駐車場が便利だったため自分の駐車場のごとく使用したのだ。
火事ですか!?事件ですか!?
その他騒動が続いていたある日、理事長から私の携帯に通報があった。マンションに消防車と救急車が来ているという。
「火事ですか?!」わたしは焦った。
「例のお部屋の前に消防隊員が詰めかけている!」と理事長。
火事ではないようだが、何が起こっているのか理解できない。
その直後、件の居住者のお隣さんからも連絡が入った。
お隣さん:「消防隊員が隣に来ている。ベランダの間仕切りをぶち抜いて、私の部屋のベランダから隣に進入してもいいかと消防署員から聞かれてる。どうしよう?」
大野:「え?!何事ですか?」
お隣さん:「夫婦喧嘩みたいよ。」
大野:「は?そんなことで、消防車が来るんですか?」
お隣さん:「中に子供がいて、妻が無理心中するかもしれないから、玄関扉を壊せ!と、隣のご主人が言っているみたいよ。」
お隣さん:「とにかく、ベランダから侵入するかもしれないから、入っていいかを消防隊員から聞かれてるけど、どうしよう・・・?」
そうこうするうちに、隊員に説得された妻が解錠し、消防車と救急車は引き上げて行った。
一方、緊急車両に駆け込まれ館内はすでに興奮状態となっていた。
居住者からの問い合わせが相次ぎ、わたしはマンション全体に何らかを知らせる必要に迫られた。
何と説明しようか?
「消防車の出動は夫婦げんかのためで、火事ではありませんでした」とは言えない・・・。
結局、「本日の消防車出動は、火災その他マンション館内の非常事態によるものではありませんので、ご安心ください。」と火消しに回ったのだった。
共用部の復旧は個人ではできない
それにしても、玄関扉を破るとか、ベランダの間仕切りをぶち抜くなどは穏やかでない。
玄関扉もベランダの間仕切りもガラス戸も全てマンションの共用部分だ。その復旧には、管理組合の許可が必要となる。勝手なグレードの代替品で復旧されると、マンションの性能上・外観上の問題が発生するためだ。
つまり、共用部分をぶち壊した場合、後始末は極めて煩雑なのだ。
次回は、はしご車を呼んで直接ベランダからの侵入を試みてもらいたい。
あとがき
火災や爆発でなくとも消防隊が駆け付けてくれるという事実を初めて知った。
玄関扉を破るか、ベランダから窓を破って室内に進入するか、消防隊は真剣に検討していたようだ。
しかし、安易に玄関扉やベランダの間仕切りを破らなかった事実を考えると、消防隊も共用部分を破壊することの影響を知っていたのかもしれないと思う。
居住者である夫が「玄関扉をぶち壊せ!」と言っても、粘り強く室内の妻を説得していたそうだ。
このマンションの総会では、消防や警察が出動することがあった時には、必ず館内に説明と結果報告をするようにとの要望が出席者から出されていた。
このため館内に報告する文書の掲示は必須だったのだが、その文書は当事者の目にも入る上に、個人情報でもある。その他居住者の「知る権利」との兼ね合いが難しいと思った。
今回のように、マンション共用部分に被害が発生しなかった場合は、「知る権利」は、発生しなかったようにも思う。
帰社後、上司に顛末を報告すると、
”それほど珍しい出来事でもない”
と、言われたことに一番驚いたのだった。