長期修繕計画書作成には注意が必要だ

自身のマンションの長期修繕計画書をしっかり読み込んでいる、という所有者はどれぐらいいるでしょうか。

長期修繕計画書が「あるか、ないか、わからない」と言われる方も少なくありません。

たはまた、管理会社が「長期修繕計画書」を作ると管理委託契約にあるにもかかわらず、怪しい設計士に大金を使って、心もとない計画書を作ってしまった管理組合もあり、複雑な心境になります。

長期修繕計画書とは

 「長期修繕計画書」とは、マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るために重要な修繕工事等を行うための計画書であり、修繕積立金額を設定し、積み立てるための根拠となるものです。

 重要な修繕工事のための計画書ですから、日常的な小修繕(駐輪場扉のガタツキ修理など)は含まれていません。

 「大掛かり」で、修繕工事に「一定の時間」を要し、費用が「高額」な修繕や工事に関する25~30年先までの期間の計画書です。

長期修繕計画書は、大規模修繕工事のための計画書ではない

一方、「大規模修繕工事」とは15~18年周期で行われる“大掛かりな修繕をまとめた工事”です。

修繕周期が似たものは一つの時期にまとめて行うことにより工事費を抑えることが出来るため、可能な限りまとめて”大規模修繕”として行うのがよいとされています。

これに対し、必要な時期にその都度行うほうが費用面でメリットがあるとする考えもあります

「長期修繕計画書」の中にも、“大規模修繕工事”の時期、工事内容及び予定額が明記されていますが、“大規模修繕工事のための計画書”ではありません。

この辺りを勘違いすると、「長期修繕計画書」の変更やそれに伴う修繕積立金の値上げが困難になります。

大規模修繕工事に掛かる費用は、その工事の際に工事内容や工事個所の取捨選択時に検討するべきものであり、「長期修繕計画書」の中身とは切り離して考えることも時に大切です。

長期修繕計画書がない?!

長期修繕計画書はなくてもよいか? あればそれでよいのか?

長期修繕計画書は、マンション運営という50年を超える長旅の航海図に等しいものです。

航海図も羅針盤もなく航海する船は思わぬところで座礁したり、行き先を見失う危険性が高まります。

わたしは、長期修繕計画書は管理組合に必須であると考えています。

それほど重要な計画書であるからには、その内容を常にマンションの現状に合わせて作り直さなければなりません。

何年も前に作ったまま放置しているというのは、「計画書がない」に等しいと言えます。

長期修繕計画書作成の依頼先

長期修繕計画書の作成を依頼する先はいくつかあります。

  • 設計事務所(建築士)
  • 管理会社(委託外の会社でも可能)
  • 工事会社
  • マンション管理のNPO法人(マンション管理士など)

最も多くの長期修繕計画書を作成しているのは、マンションの管理会社でしょう。

管理組合によっては、管理会社との委託契約の中に「長期修繕計画書の作成」が含まれています。

この場合、まずはこの管理会社が作成する「長期修繕計画書」をたたき台に活用し、管理組合で精査することをお勧めします。

※大規模修繕工事を実施できる程度の工事会社も長期修繕計画書を作成してくれる会社があります。

長期修繕計画書の見方 初級 ①

マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するためには、建物の経年劣化に対して適時適切な修繕工事等を行うことが重要です。そのために、作成されるものが長…

コラム:「長期修繕計画書」作成費100万円超!? 

元理事長が連れてきた怪しい設計士のはなし

わたしが過去に経験した、長期修繕計画書作成をめぐる残念な経験を、ここで少しだけお話しします。

わたしが管理会社のマンション担当者だったころ、ある管理組合さんが某設計会社の設計士に長期修繕計画書の作成を発注されたことがありました。

管理会社との管理委託契約の中に「長期修繕計画書」作成の費用が含まれているにもかかわらず、元理事長が連れてきた設計士さんに100万円を優に超える金額で計画書を作成させたのです。

計画書の内容を拝見すると、国交省が推奨する「長期修繕計画書標準様式」に準拠するわけでもなく、1000万円を超える大工事の予定を入れ忘れていたり、マンションの実際の設備が計画書と異なっているなど、お粗末な内容と感じました。

しかし、それらの点を指摘しても当の管理組合さんは問題視せず、管理会社の作成する「長期修繕計画書」は不要とおっしゃいました。

わたしは、管理組合がいかに管理会社を信用していないかを痛感しました。

管理会社が信頼を得ていれば、管理組合のこのような出費は防げたはずでした。

管理会社を信用していない組合さんは、外部の建築士や設計事務所に対しても十分に警戒し、自分たちでチェック機能を発揮する必要があります。

しかし、この組合さんの場合は、管理会社を信頼しないだけで外部へのチェック機能は発揮されなかったのです。

とても残念なことですが、このような事態に陥った場合、管理会社は建築士の責任について深追いすることはありません。

わたし(管理会社)は、「建築士の作成した計画書には問題があり、そのことを理事会に指摘しましたよ」と言う文書を、後のトラブルを避けるために残すに止めました。(会社の指示でもありました)

管理組合自身に内容を精査し見極める力と意思がなければ、残念な結果につながってしまうということを学びました。

次の記事では、管理組合が主導して作る「長期修繕計画書」の作り方を記載します。

初回ご相談は無料です