自分の弱点を痛感した築浅物件の漏水事件
マンションの漏水
漏水、それはマンション管理の担当者が恐怖する「マンションあるある」の一つだ。
戸建住宅の場合、漏水が発生しても被害はその家の住人に止まり、ご近所に迷惑をかけることはないだろう。一方、マンションでは多くの場合、階下の住人がその被害を受けることになる。給排水管から漏れた水が床下のコンクリートに浸透し、階下の天井から滴り落ちるのだ。
特に、築30年を超過すると給排水管からの漏水は増加するのだが、私が頭を抱えたのは、築10年ほどのマンションで発生した漏水だった。
漏水元とのバトル
一般的に、漏水元と疑われた住戸は被害を発生させているかもしれないと早い解決を望むものだが、この時はいつものようには話が進まなかった。
上階の居住者が漏水確認のための立ち入りに難色を示したのだ。
「妻も自分も働いており時間が取れない、休めない。」と主張し、調査日程の調整をお願いするわたしの電話に出ないことも度々あった。
大野 :「下階の居住者さんが漏水で悩んでいます。調査させてください。」
漏水元:「何回調査するんだ?!休めないんだ!」
大野 :「土日でも構いませんよ?」
漏水元:「土日も仕事だ!2度の調査で見つけられないオマエラノ責任だ。どうするつもりだ!!」
確実にその部屋からの漏水だと言い切れないうちは、調査はあくまでお願いベースであり、強く出ることは出来ない。そして、すでに2回も調査を実施したのに、漏水の原因を突き止められないのも事実であった。
最後の立ち入り調査?!
私は、次の立ち入りで解決しなければ、もう二度と入室させてくれないかもしれないと強い危機感を持った。漏水元はバスルームであろうという漏水個所からの推定を基に、建設時そのマンションにユニットバスを設置した業者を伴い3度目の漏水調査に挑んだ。
まず、給排水管漏水調査専門の職人さんが調査するも、原因を特定できなかった。いよいよユニットバス業者さんがユニットバスを一つ一つ解体していく・・・。
「大野さん、ちょっと来て」職人さんから声がかかった。
「分かりましたか?!」藁をもすがる気持ちで駆け付けた私に、職人さんはこぶしより大きい黒い塊を見せた。
「原因はこれやね。」
漏水の原因は?
それは排水溝に詰まっていた髪の毛の塊だった。
「排水溝にこれが詰まって、完全に排水出来ないままお風呂を使っていたんやな。」
なんと、髪の毛の塊で排水溝が詰まって汚水が堰き止められ、バスルームの中でも本来は水の溜まるはずのない場所(洗い場)が水深20センチとなり、ユニットバスの継ぎ目から水がしみ出していたというのだ。
給排水管を調査しても原因が解明されいのは当然だった。
「この部屋の居住者さんは、漏水の原因をわかってただろうね。」と職人さんは指摘した。
解決を遅らせた原因は・・・
担当者として私は、漏水元の居住者さんから漏水についての心当たりを十分に聞き取る必要があった。しかし今回の場合、交渉相手の威圧と拒絶に圧倒され、逃げ腰になったことで解決が遅れてしまった。
自分の弱点を痛感する事件であった。
あとがき
以前私が勤めていた管理会社はディベロッパー系の管理会社だ。
この漏水が起こったマンションは親会社が販売したマンションだったため、問い合わせるとすぐ建設会社と設備会社に繋げてくれた。
この時ばかりは、さすがだなあと感心したものだ。
建設会社に漏水の原因が突き止められないと相談すると、配管設備の点検者とユニットバス組み立て専門の業者さんをマンションに派遣してくれた。
3回目の漏水調査だったため、保険会社の調査員も同行し大騒ぎになった。
最終的にはユニットバス施工の職人さんが、排水溝部分の解体を開始するとすぐに原因が突き止められた。
ユニットバスの形状として、湯船の中の水も、洗い場からの排水も同じ排水溝から排水される仕組みになっており、湯船の排水も洗い場の排水も洗い場にあふれたものと考えられた。
ユニットバスの職人さんから居住者に分解掃除の方法をお伝えした後、現場から撤収した。
この時の”やれやれ”感は相当なものだった。
漏水問題は管理会社の担当者の頭痛の種だ。
管理会社によっては、部屋内からの漏水は管理会社は介入せずに加害者と被害者同士で解決させるという。
今後は「部屋同士の問題は管理会社が介入しない」というスタイルが主流になっていくことは間違いないだろう。
各戸が加入する火災保険は必須だ。
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