専門家の採用は慎重に

嵐を呼ぶ?マンション管理士採用議案

マンション管理士として組合運営をサポートする中で、最も憂鬱な瞬間がある。それは、マンション管理士の採用議案が総会で審議される時だ。

マンション管理士の採用には費用がかかる。

管理組合の貴重な資金を投じる以上、組合員から厳しい目が向けられるのは当然だ。理事たちにとっては有用で心強い存在であったとしても、  理事以外の組合員は“目に見える管理の向上”を認識しづらく、価値を理解いただくことは容易ではない。

管理士の採用は多くの組合員にとって、“専門家”と称する得体のしれない人物に「お布施を払う行為」のごとく、受け止められる。

管理士の存在意義、真っ向から否定される

ある組合の、総会での出来事だ。

管理士採用議案に入ると、説明を待たずして出席者からの発言が相次いだ。

「あんたは誰や?なんで総会におるんや?」

「管理会社に任せておけば済む話だろう!費用の二重払いだ!」

「無駄な金を使うな!」

矢継ぎ早に飛んでくる言葉は、管理士の存在意義を真っ向から否定するものだった。

「議案書まったく読んでないですね?」、「管理会社に任せたら、ひどい状況になったので呼ばれたんですよ。」と心の中で叫ぶ私。顔に貼った「菩薩の微笑(ほほえみ)」は、早くも剥がれそうだ。

時には管理会社や理事・役員との癒着を疑われ、何の根拠も示さず泥棒呼ばわりされることもある。まるで、身に覚えのない罪で法廷に引きずり出された被告人の気分だ。

心が折れる瞬間

最も心が削られるのは、攻撃的な反対派の言葉ではない。会場を埋める多くの組合員の「沈黙」である。

否定される管理士のことを、他人事のように眺める視線。あるいは、面倒ごとに巻き込まれたくないと言わんばかりに伏せられた目。管理士の採用を望んでいるのが理事長の場合は、必要性を訴えてくださるが、ほかの理事からの援護射撃はほとんどない。

多くの場合、議案は最終的に可決されるのだが、他の議案とは比較にならない数の反対票をいただき、その夜は悔しくて眠れない。

管理士の採用は慎重に・・・

このような状況に陥ることが明らかであるため「顧問として採用したい」という理事会(理事長)からのありがたい申し出に、「管理士の採用は慎重に」と返答し、どれほど総会が荒れるのかを説明するようにしている。

マンション管理士は単に組合に関する法律のうんちくを述べるだけの存在ではない。管理会社の内情に精通し、組合特有の問題解決を支援する専門家だ。

ほかにも、相見積もり取得などを通じて組合の費用削減を実現することにも注力している。管理士を採用したことでトータルの費用が削減できる可能性は十分見込める。

しかし、その価値は見えにくい。成果が出るまでには時間がかかり、組合には忍耐と費用が求められる。

その上、管理士の採用は結局のところ、何でも解決してくれる「魔法の杖」ではない。

主体的な運営に取り組む組合に対し、管理士がその専門性を発揮して支援する。このような関係性こそが、管理士採用を「成功」へと導く道筋だ。

「憂鬱」な総会を笑って振り返ることができたころ組合は、管理士の支援からの卒業を果たしていることだろう。

株式会社ビル新聞社

コラムあとがき

 先日、ある管理組合の「マンション管理士採用議案」の議事録を読んで、つい笑ってしまった。

私が投げかけられた、「管理会社に任せておけば済む話だろう!費用の二重払いだ!」と、全く同じ発言が記録されていたからだ。

私は「どこでも同じこと言われいるのだな」と、胸をなでおろした。

この発言者に申し上げるとすれば、「管理会社に任せておけばよい」というのは全くの誤りだ。

管理会社とは、敵対するものでも信頼して丸投げする先でもない。

このコラム全編をお読みいただければ、その理由を理解いただけるだろう。