シリーズ、大規模修繕工事狂騒曲 第6話
前回までのおさらい
大規模修繕工事を控えた某マンションの話。理事就任を希望する引っ越し間もない居住者が、大規模修繕工事に介入して裏で多額の報酬を得る事業者の社員であると判明。社員はあの手この手で介入を試みるが、理事会は申し出を全て拒否して、修繕工事の手続きを粛々と進めた。事業者は他社への発注を確認し、部屋を引き払い去って行った。
幸運に恵まれたのはなぜか
同じ事業者に狙われ、最終的に裁判沙汰になったマンションもあるのだから、このマンションはつくづく運に恵まれていたと思う。付け込まれなかった要因を考えてみたい。
最初に挙げなければならないのは、優秀な管理員さんの存在だ。度々訪ねてくる新入りを挙動不審とマークし、その動静を管理会社に逐一報告。入口で要注意と喚起し続けた功績は非常に大きい。管理員さんは長く勤めれば、それだけマンションに愛着をもち、能力を発揮することが多い。管理員さんにとって勤めがいのあるマンションとなっているか、組合は心を配る必要があるだろう。
情報の重要性
次に、管理会社に登場したお連れ様が、担当者の上司と「旧知の仲」であった偶然だ。新入りとお連れ様の目的がこの時点で露見し、担当者は対策を講じることができた。解せないのは、二人連れだって管理会社に現れた目的だ。身元が割れるリスクを認識していなかったのだろうか。彼らの立場であれば、管理会社に悟られずに管理組合を取り込むよう細心の注意を払うべきである。管理会社に乗り込み名刺を出して正体を明かすなど論外だと思う。不可解極まりないが、マンションにとってはタナボタだった。
そして、他のマンションの被害情報をWEB上で入手できたことも僥倖だった。理事会説得にあたり、客観的証拠の提示は有効で説得力があった。今回詳細を再確認しようと同サイトを探したが跡形もなかった。個人の発信に頼らず情報共有を可能とするために、広くマンション同士のつながりが必要ではないかと思う。
管理組合の主体性
最後に、この管理組合が管理会社と敵対していなかった事実を指摘しておきた。不信感丸出しで、聞く耳を持たない理事会であったなら、別の喜劇となっていたはずだ。お連れ様のような稼業に付け入るスキを与えないためにも、平素から両者の関係構築が非常に重要なのだ。
すでにご存知のように、管理組合は、相手の商法を見抜き管理会社に公然と敵対してくることがある。管理会社が何もしてくれないと不満を募らせることも多い。しかし、管理会社はマンション管理のほんの一部について業務を請け負っているだけであり、管理会社がマンションにまつわる問題を全て解決するはずだというのは大いなる誤解だ。
管理組合は、問題を解決する当事者は自分達自身だと自覚しなければならない。所有者がマンションの維持管理についての理解を深め、主体的に参加するしか問題解決への道はない。
あとがき
この騒動は、マンション担当者時代の経験の中でも群を抜いて強烈で、今でも恐ろしく思うほどだ。大規模修繕工事という管理組合の一大イベントに引き寄せられる様々な稼業の中でも特別なケースを書いた。
ここで話す”管理組合を揺るがす稼業の人々”を誘引しているのは、管理組合に蔓延する「無関心」に他ならない。所有者の「無関心」が彼らにとってどれほど魅力的なのかご理解いただけるだろう。
様々な幸運が重なって、大規模修繕工事への介入を阻止することができたが、できなかった組合は裁判沙汰になっているところもある。
どのように、「無関心」を脱却し、主体的に組合運営に取り組むか・・・。それは組合を大切に思う人々の「永遠の課題」だ。


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