台風被害で知った保険の実際と隣の理事会事情

台風でマンションの屋根が飛んだ?!

前回のコラムで書いたように、管理組合が加入するマンション保険は、管理会社の収益アップの材料に利用されることがある。とはいえマンション保険は管理組合にとって不可欠なものだ。しかし、保険を使えないケースがあるという事実を知ったのは、関西地方を襲った超大型台風で担当マンションが被災したときのことだった。

某空港が水没するほどの被害をもたらした台風が過ぎ去った直後、理事長から連絡が入った。

「マンションの屋根が台風で飛んで大変なことになっている。」

屋根が飛んで、周囲に被害が出ても・・・

多くのマンションの屋根は、陸屋根と呼ばれる水平またはほとんど勾配がないタイプだ。一方、「屋根が飛んだ」マンションでは、山形タイプ(切妻屋根)が採用され、アスファルトシングルと呼ばれる材料が敷設されていた。

この建材は軽量で耐震性が高い一方、風で飛ばされやすいという難点があった。最大風速50mの風に飛ばされたのは、屋根ではなく屋根部分に敷設されたアスファルトシングル材であった。

アスファルトシングル材は一枚一枚は軽量でも、大きな塊となったら重量級だ。それが飛散したのだから堪らない。敷地内はもちろん、周辺地域にも1mを超える屋根材の塊が無数に飛散。駐車場の複数の車が下敷きになり大破している。隣のマンションでは駐輪場の屋根が破損した。賠償を求められることは必至だ。

しかし自然災害時は、不可抗力の要素が大きければ損害賠償責任を負わないとされている(土地工作物責任、不法行為責任などがある場合を除く)。もちろん、保険会社も自然災害を起因とする第三者への損害賠償に保険金は支払わない。

そこで組合は、損害賠償は行わないと理事会で決議した。しかし被害者側は納得がいかず、台風直後から担当者の私は、被害者への説明に忙殺される日々が続いた。 

隣のマンションからのお呼び出し

台風処理もひと段落したと安堵していたある日、件のマンションの理事長から連絡があった。

「隣のマンションのから、損害賠償について理事会に来て説明するよう申し入れがあった。」

当日は戦々恐々としならが隣の理事会に挑んだが、キーマンにあたる(隣の)理事に、事前に事情を説明しておいたせいか、賠償を行わない旨は穏便に受け入れられた。ホッとしながらも私は、お隣の理事会の様子が気になった。

隣の理事会は20名を超える理事たちが集会室に集まり、お茶やお菓子が振舞われていた。議事の進行は理事がおこない、多くの理事が意見を述べ、活気があった。なによりも驚いたのは、管理会社の担当者が一言も発言せず、“その場にいるだけ”を貫いていたことだった。「なんて楽な立ち位置だ!」

理事会の様子にすっかり感心した私は、帰り際に隣のマンションの理事にこう打ち明けた。

大 野 「理事の皆さんで議事進行をされて、素晴らしいですね。」

理 事 「いや、あの管理会社は役に立たないからリプレース(管理会社変更)を検討しているんです。」

「いや、違う!管理会社に頼らない体制作りが、組合には必要なんですよ!」と、私は心の中でつぶきながら、マンションを後にしたのだった。

あとがき

このマンションの台風被害復旧に当たっていた頃のわたしは、殺気立っていたらしい。同僚から、すごい被害の出たマンションの担当者として注目されていたと、後になって聞いた。しかし、この組合の理事会とは良好な関係を築いていたため、乗り越えることができたのではないかと思う。

敵対視されているマンションなら、被害者からの罵倒や脅しに耐えられなかっただろう。

このような非常時には、普段管理会社を必要以上に敵視しないことのメリットが、出るかもしれない。

提供:株式会社ビル新聞社

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