狙われる修繕積立金

このサイトでも何度も取り上げている、マンションの大規模修繕工事に関する談合問題で、公正取引委員会による調査結果と処分内容が正式に発表された。

公正取引委員会が本件(関東地区の大規模修繕工事談合)で関係先へ立入検査(強制調査)に入った2025年3月以来、待ちに待った調査内容の全貌が明かされた。

▶発表資料はこちら

【調査結果の概要】

項目内容
発表日・発表機関令和8年9月28日/公正取引委員会
違反条文独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
対象工事管理組合が計画的に発注するマンションの大規模修繕工事(外壁全面に足場を組むなどの仮設工事を伴うもの)
対象地域関東地区(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県・栃木県・群馬県)
設計コンサル業者株式会社リノシスコーポレーション/株式会社翔設計
違反事業者のべ57社(実数42社=設計コンサル2社+施工業者40社)
課徴金額の総額16億3,788万円

令和8年9月28日、公正取引委員会は、関東地区に所在するマンションの管理組合が設計コンサルに委託して発注する大規模修繕工事について、独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)違反があったとして、コンサル2社+施工業者36社に排除措置、施工業者37社に総額16億3,788万円の課徴金納付を命じた。

談合工事が行われたと認定されたのは、2022年2月~2025年2月に契約が結ばれた1都6県の計171件で、発注額は計約310億円に上る。

あわせて、業界3団体※に対し、施工業者から設計コンサルへ支払われる「手数料等」に関する資料の周知を申し入れている。

(※業界3団体とは、一般社団法人全国マンション改修設計コンサルタント協会、一般社団法人マンション計画修繕施工協会、一般社団法人日本塗装工業会 のこと)

 「談合」の仕組み

施工業者36社+リノシスコーポレーション(設計コンサル)と、施工業者19社+翔設計は、

それぞれの工事ごとに「受注協力関係」を構築した相手を受注予定者とし、それ以外の者は受注予定者が受注できるよう協力する旨の合意の下に、受注予定者の決定と、受注予定者が受注できるようにする行為を継続していた。

これにより、公共の利益に反して競争を実質的に制限していたと認定された。 (公正取引委員会)

違反行為の時期と被害マンション名

違反行為の時期は、リノシスが関連する大規模修繕工事については遅くとも令和3年9月27日以降、翔設計については遅くとも令和3年11月16日以降とされている。

報道によれば、各社は遅くとも2021年秋から昨年3月までの間、関東のマンション計171カ所の修繕工事で事前に受注予定業者を決めるなどの談合を行ったと認定され、公取委は業者名とあわせてマンション名も公表している。

マンション名を確認するには、下の各資料のページ下方を参照ください。

▶リノシス関連はこちら(令和8年(措)第3号 排除措置命令書 別添1 別表4)

▶翔設計関連はこちら(令和8年(措)第3号 排除措置命令書 別添2 別表4)

談合スキームの全容

本来の「設計・監理方式」では、

 👉管理組合は、設計コンサルをコンペにより選定し、設計業務を委託する

 👉設計コンサルが、施工業者の選定補助を行う

 👉管理組合は、見積り合わせを実施し、施工事業者を選定する

しかし、談合を主導する設計コンサルを採用してしまうと、

 ⇒設計コンサルは、受注協力関係を構築した者に受注させるよう画策

 ⇒受注予定者以外の者は、受注予定者が受注できるよう協力する

というスキームにはまる。

この場合、設計コンサルは設計予算(管理組合が決定する発注予定金額)などの情報を受注予定者に提供し、受注予定者の意向を踏まえて設計業務を行い、受注予定者は設計コンサルとの協議を経て、見積り合わせに参加する者が管理組合に提示する見積価格等を定める。

公正取引委員会の発表によると、リノシスおよび翔設計が関わった大規模修繕工事の大部分が本件違反行為によって受注され、当該工事を受注した施工業者は、原則として工事請負契約の契約価格の5%を目安とする金額を設計コンサル業者に支払っていたとされている。

公正取引委員会が命じた措置

排除措置命令では、命令の対象事業者それぞれが取締役会決議(取締役会非設置会社では取締役の決定)により、

 ①違反行為を既に行っていないことの確認

 ②今後、相互間または他の事業者と共同して受注予定者を決定しないことを決議する

これら二つが求められている。

加えて、

 ①今後受注予定者を決定してはならないこと

 ②大規模修繕工事の受注に関する独占禁止法遵守の行動指針の作成・改定と役員・従業員への周知徹底

 ③関東地区の大規模修繕工事の営業に関わる役員・従業員への定期的な研修の実施

も必要とされている。

また、命令の対象事業者のうち施工業者と設計コンサルは、採った措置を「自社が受注した工事を発注した管理組合に通知しなければならない」

つまり、対象工事を発注した管理組合には、「自分たちの工事が独占禁止法違反の対象だった」という通知が届くはずだ。

この通知を受け取った管理組合は、直ちに組合全体に周知し、対策を検討する必要がある。

処分された事業者と課徴金額リスト(課徴金額ランキング)

①リノシスコーポレーション受注物件 課徴金額ランキング

ランキング違反事業者名課徴金額
1株式会社長谷工リフォーム2億7,648万円
2株式会社シミズ・ビルライフケア1億400万円
3日本ハウズイング株式会社8,519万円
4株式会社日装・ツツミワークス7,319万円
5株式会社SMCR6,905万円
6株式会社伊勝6,453万円
7建装工業株式会社6,233万円
8株式会社ティーエスケー2,290万円
9リノ・ハピア株式会社2,102万円
10株式会社J-BISメンテナンス1,766万円
11株式会社セラフ榎本1,536万円
12シンヨー株式会社1,505万円
13株式会社大和1,201万円
14株式会社リニューアルウィングス981万円
15株式会社東急コミュニティー955万円
16株式会社アイピー21862万円
17ヤシマ工業株式会社731万円
18株式会社大京穴吹建設535万円
19ヤマギシリフォーム工業株式会社533万円
20合人社エンジニアリング株式会社455万円
21株式会社NAKAMURA366万円
22ニットクメンテ株式会社358万円
23株式会社ニーズワン345万円
24株式会社アール・エヌ・ゴトー318万円
25株式会社太陽259万円
26株式会社エム・トラスト235万円
27ワイ興産株式会社228万円
28株式会社大塗226万円
29株式会社リソー220万円
30株式会社LINK'S188万円
31株式会社アルテック175万円
32南海工業株式会社158万円
33株式会社カズキ152万円
34株式会社リノシスコーポレーション免除
35株式会社YKK APラクシー免除
36株式会社日装-
37日本ハウズイング株式会社-
合計9億2,157万円

②翔設計受注物件 課徴金額ランキング

ランキング違反事業者名課徴金額
1株式会社伊勝3億1,751万円
2株式会社富士防1億3,074万円
3ヤシマ工業株式会社5,349万円
4株式会社長谷工リフォーム5,289万円
5株式会社大京穴吹建設4,397万円
6株式会社シミズ・ビルライフケア2,523万円
7株式会社大和1,404万円
8株式会社日装・ツツミワークス1,316万円
9株式会社ティーエスケー1,075万円
10シンヨー株式会社933万円
11株式会社サカクラ792万円
12ヤマギシリフォーム工業株式会社754万円
13株式会社NAKAMURA673万円
14ダイワテック株式会社664万円
15株式会社イワサ・アンド・エムズ627万円
16日本ハウズイング株式会社518万円
17株式会社セラフ榎本492万円
合計7億1,631万円

2つのコンサル案件を合わせた課徴金総額が最も多かったのは「株式会社伊勝(いかつ)」の約3億8,200万円。次いで、「株式会社長谷工リフォーム」の約3億3千万円と、2社の課徴金が突出していることがわかる。

課徴金の額は、談合のかかわりの大きさであると推測される。

各発表資料から読み取れることリスト

今回の公正取引委員会発表の資料は多岐にわたる。このため、どの資料にどのような内容が記載されているかをリスト化した。

ファイル内容
別添1 排除措置命令書令和8年(措)第3号。リノシスコーポレーション関連の命令書
別添2 排除措置命令書令和8年(措)第4号。翔設計関連の命令書
別添3 手数料等について「大規模修繕工事の施工業者から設計コンサル業者に対して支払う手数料等について」。手数料等の支払の構図と問題提起
別表1/別表2違反事業者および課徴金額一覧
事案の概要(図解)談合の仕組みと受注実態、5%目安の支払いを図示
最近の入札談合・受注調整事件/課徴金制度の概要課徴金の計算方法(基本10%、中小企業4%)等
調査協力減算制度減免制度と減算率の仕組み

▶発表資料はこちら

公正取引委員会の功績

今回、談合という長年の悪しき習慣に対し、公正取引委員会が初めて公的な処分を下した。本来は、管轄官庁である国土交通省の仕事であるが、いまだに実態調査を行う気配はない。

この発表で最も重要なものは、

「設計コンサルが発注情報を施工業者に提供し、その施工業者が受注した場合に、工事請負契約金額の一定割合に相当する金銭(手数料等)を施工業者が設計コンサルに支払っていた事実を確認した」としている点だ。

また、「この手数料等が、施工業者が受注できるように設計コンサルが協力したことに対する「報酬」として機能する可能性がある」とも指摘している。

この発表から私が思うこと

長年問題視され続けてきた「長期修繕工事をめぐる談合」について、公正取引委員会が今回行った調査に対し、私は心からの敬意を表したい。

これまで、業界で行われている談合については、”まことしやかに語られてきた”に過ぎず、公に認められる機会はなかった。今回の公正取引委員会の調査がなければ、いまだに公に認定されることはなかったはずだ。

しかし、この調査および処分がなされても、この悪しき習慣が一掃されるとは考え難い。今後も同じスキームは繰り返されるだろう。

だが、一部とはいえ談合の事実が公になった今、公正取引委員会の功績を、生かすも殺すも、すべては管理組合のこれからの行動にかかっている。組合の真価が問われているのだ。